松斎録

中国古典詩学に興味があります。

浅見洋二『陸游』簡評

陸游南宋の大家であるが、日本で出された訳注と言えば、鈴木虎雄、一海知義、前野直彬各氏のものが主に上がる。しかし、これらは1960年代以前のものであり、ここ最近まで中々新たなものは出されなかった。

そこで、本書が出た時は非常に楽しみにしており、どんな陸游像が示されているのか、またどのような選になっており、訳注の指摘も非常に気になる所であった。その期待は十分に果たされた書だと思う。

まず、解説を見るに、「田園」や「郷村の指導者」といった新たな、浅見氏らしい展開があり、選も他書とは重複を避けたというから、全く違う陸游像がみえてくるのである。それも意外に保守で、感慨深く、静かな陸游である。

詩の訳注を見ると、例えば、「遊山西村(p60)」の「山重水複」に、黄庭堅の跋文の用例が引かれていたが、これも新しい指摘である。銭鍾書氏の『宋詩選注』にも、銭仲聯氏の『剣南詩稿校注』にもこの跋文の指摘はなかった。むしろ多言を要して、懸命に注していた印象がある。そこを一言で破るのは、浅見氏の業績とも思う。

なお、「詩解」は、早川太基氏が「浅見読陸心解」と『読杜心解』をもじって言われていたのが非常に印象に残っている。的を射た評である。

(浅見洋二『陸游』2022年・明治書院)