松斎録

中国古典詩学に興味があります。

中国学を志す学生の皆様への書簡 その1

 

 中国学を志す学生の皆様、こんにちは。わたくしは、東京渋谷の丘の上に潜むたぬきでありまして、松齋と申します。最近大学院修士の秋季入試の出願をして、ようやく落ち着いた所です。みなさまはどうお過ごしでしょうか。とくに学部一年になられた方は、夏休みがもう終わるころでしょうか。わたくしは、そのような皆様に向けて少し手紙を書きたいと思います。多少の身の上話と説教とが含まれますが堪忍願います。

 まず、みなさまが中国学を志したのは、どういった理由からでしょうか。正直、この分野は、学問の流行からは追いやられた隅っこにいる学問です。しかし、みなさまにはそれなりの理由があるからでしょう。私の場合を申しますと、中学と高校の漢文の授業がきっかけです。レ点などの訓点が面白いなというところから入っていった記憶があります。しかし、よくよく考えれば、訓点というのは、国語学の分野にもあるのですが、その時は無知でありましたので、中国学も中国文学の方向に進もうと思いました。また、世界史が好きでしたので、東洋史もあわせて考えるようになりました。わたくしの高校時代は艱難辛苦の連続でして、心身の不調により、公立高校をやめ、通信制高校にも行った経歴もあります。しかし、入試では、何校か落ちながらも現役で、中国文学科のある大学に進学することが出来ました。

 大学に行きますと、驚きの連続でした。とにかく自由な気風があります。わたくしは、南関東の郊外にある、中間くらいの偏差値の高校でしたから、少し物足りないところがありました。さらに高校特有の窮屈さがありました。ですから、大学生になり、非常に感動しました。また、中国学を志す仲間が近くにいて、先生たちが色々教えてくださいます。やはり多少は、中国文学科に不本意入学して、興味を示さない仲間もいましたが、それでも私は日々食いつくように中国学に励んでいきました。先生方もよくしてくださり、とくにA先生という方はよくいろんな場面で声をかけてくださいました。期待と希望とを胸にしつつ、これらのことが何よりもうれしかったですね。また、勉強ではおしりのほうであったわたくしも、好きな勉強ならとことんできることがわかってきまして、加速度的に中国学に触れることが多くなっていったように思います。

 さて、皆さまは、どんな大学生活を送られていますか。中国学であるならば、漢文と中国語とを学ぶことになるでしょう。いきなりこれを読めと言われて戸惑う姿が想像できます。わたくしもそうでした。とくに中国語基礎の授業では、毎回のように音読させられました。当時は嫌で嫌で仕方なかったのですが、今になると語学の基礎であったことがよくわかります。

また、何曜日かの夕方には、唐代文学研究会という、サークルのような、ゼミのようなものがありまして、皆好きな詩を読んでいました。厳しい授業を耐え抜くと上級生と院生とがゆったりと漢文や詩を楽しんでいました。さらにK先生という大家がそこで見守るように指導されていまして、よくよく考えてみると、岩波文庫で本を出されていた方でした。ですからなおのこと、驚いた記憶があります。

 今までの話が大学一年生の時分でした。書いているうちに懐かしさの気持ちが胸に去来しました。先ほど、中国学は片隅に追いやられた学問だと形容しましたが、本当はもっと真ん中にいるべき学問です。なぜなら、勉強が苦手で苦痛だったこのわたくしが一年もせずに、こんなに楽しめる学問に出会ったのですから。

また続きはいつか書きましょう。みなさま頑張ってください。