松斎録

中国古典詩学に興味があります。

漢詩を読みたいという方々へ①

〇むかし、漢詩の始め方 おぼえがき|東大漢詩研|noteというものを書きましたが、これを筆者である私自身が大幅に加筆修正したものです。

なお、出版社や書店、サイトの紹介がいくつもありますが、個人的な選択によるものです。また漢詩を読むというのは、日本語の訓読を以て読もうとされている方を対象としています。

 

 

0、前書き

私は、しばしラテン語の勉強をしていますが、どうもやりにくいと思ったことがあります。というのは、七変化ともいえる格変化の難しさは置いといて、そもそもやっている人口が少ないからというのがあります。漢詩(中国古典詩)も同じです。やりたいという人は結構見かけるのですが、始めようにも習う場所やテキストが正直多くありません。また、入門書が少ない、やり方がわかりにくい、漢詩の響きが難しそうに聞こえるなどといった理由があげられます。このような理由からどうも途中でやめてしまう人が多いようです。一応、ラテン語漢詩もやっているところはきちんとやっているのですが、情報発信がいかんせん少ないわけです。また英語の勉強法はたくさんあるのに、漢詩の勉強法は非常に少ない。自分はこの状況をちょっと危惧さえもしているのですが、まずはそれなりに入門の梯子となるような文を書いてみようと言うことで、書いてみました。

学校で漢詩にちょっと触れたことがあるという人は多いと思いますが、その先に進みたい人のための、また漢詩を深く読んだり何れは作ってみたいなと思う人のための文章です。

 

1-1、本を買うことについて

まず、用意すべき知識としては、本の買い方についてです。いきなり何?!とは思われるかもしれませんが、本の買い方ひとつで、随分と買いやすさや手に入れられる本の幅が変わってきます。また紹介する漢詩の本は古書でしか入らないものも多いので、ここはご了承ください。

大体の方はAmazonや本屋で買われていると思われますが、ネットで買われる場合は、ご存知のヤフーオークションや「日本の古本屋」というサイトで買うこともお勧めします。とくに「日本の古本屋」は質、量ともによく、私もヘビーユーザーです。例えばAmazonで高く売られている本も、日本の古本屋なら安くかつたくさん売られていることがしばしばあります。

日本の古本屋のサイトは↓↓

https://www.kosho.or.jp/  です。

文中はAmazonのリンクをはっていますが、もし古書価格が高騰しているものがある場合は、日本の古本屋でも検索してみてください。

 

1-2、読むべき本

次に本の紹介に入りましょう。

まず、そもそもの問題として、漢詩漢文のいかめしい響きの訓読に怖気づいてしまう人は多いと思います。私も入門当初はそうでした。しかし漢詩というのは、別にお硬いものでも、人生訓ばかりが書かれたものでもありません。実は恋愛の文学もあります。非常に豊饒な文学なのです。それを知るには川合康三先生の『中国恋のうた』という本がおすすめです。

中国の恋のうた――『詩経』から李商隠まで (岩波セミナーブックス S12) | 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

訓読に少し慣れたならば、まずこの二書をおすすめします。

漢詩のレッスン (岩波ジュニア新書) | 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

漢詩入門 (岩波ジュニア新書) | 知義, 一海 |本 | 通販 | Amazon

 

次に読むべきは、岩波文庫の『中国名詩選』上中下でしょうか。

新編 中国名詩選(上) (岩波文庫) | 川合 康三, 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

新編 中国名詩選(中) (岩波文庫) | 川合 康三, 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

新編 中国名詩選(下) (岩波文庫) | 川合 康三, 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

 

中国最初の詩集と言われるの詩経から最後の王朝である清までの詩を幅広く選んだ良い詩集(アンソロジー)です。とくに詩が栄えた唐と宋の分野が強いです。さらに、著者の川合康三先生の訳注とコラムは今後読んでいくにあたって、とても刺激になります。

また、江戸時代によく読まれた『唐詩選』というのもあります。漢詩は唐代のものがよいとされているので、一読に値します。李白杜甫といった有名詩人の詩がかなり入っています。ただこの本には少し問題があって、偏りが激しいです。なぜか白居易の詩が入っていません。

唐詩選〈上〉 (岩波文庫) | 前野 直彬 |本 | 通販 | Amazon

唐詩選〈中〉 (岩波文庫) | 前野 直彬 |本 | 通販 | Amazon

唐詩選〈下〉 (岩波文庫) | 前野 直彬 |本 | 通販 | Amazon

もし上の偏りの激しさが気になるようでしたら、同じ名前のちくま学芸文庫の『唐詩選』をおすすめします。実は中身は全くの別物です。

唐詩選 (上) (ちくま学芸文庫) | 真, 今鷹, 幸次郎, 吉川, 環樹, 小川 |本 | 通販 | Amazon

唐詩選 (下) (ちくま学芸文庫) | 真, 今鷹, 幸次郎, 吉川, 環樹, 小川 |本 | 通販 | Amazon

 

宋代の詩で言えば、銭鍾書という人の『宋詩選注』がおすすめです。これは高めかつ難しめです。

宋詩選注 (1) (東洋文庫 (722)) | 銭 鍾書 |本 | 通販 | Amazon

宋詩選注〈2〉 (東洋文庫) | 銭 鍾書, 宋代詩文研究会 |本 | 通販 | Amazon

宋詩選注〈3〉 (東洋文庫) | 銭 鍾書, 宋代詩文研究会 |本 | 通販 | Amazon

宋詩選注〈4〉 (東洋文庫) | 銭 鍾書, 宋代詩文研究会 |本 | 通販 | Amazon

 

 

1-3、詩人個人の本を読もう

ここまでいくつか本を読まれたら、次に杜甫白居易李白等々好みの詩人が出てくると思います。やはりここも岩波書店の本が結構ありましていくつか紹介いたします。

まずは古本での購入となりますが、岩波書店の中国詩人選集1、2がおすすめです。昭和30年代後半に出たシリーズで、当時京大を中心に出た新進気鋭の学者が書いたものです。また大家が書いたものもあり、今でも非常に有用です。古書価格は2000から5000円ほど、バラでも手に入れやすいので、おすすめです。運が良ければ3000円ほどで1,2のセットが丸々買えることもあります。

ちなみに内容は、1は唐代まで。2は宋代から清代までの詩人のシリーズです。唐代の詩の方が皆様親しみがあると思いますので、まずは1を買いましょう。1にある『唐詩概説』と2の『宋詩概説』は名著ですから詩の変遷を知りたいときに読むとよいでしょう。漢詩のルール(平仄など)は『唐詩概説』に載っております。

新品だと岩波文庫からいくつか詩人選集の改訂があります。またそうでないのもありますが、ひとまず主だったものをいくつかご紹介します。

杜甫詩選』 杜甫詩選 (岩波文庫) | 杜 甫, 洋一, 黒川 |本 | 通販 | Amazon

李白詩選 』李白詩選 (岩波文庫) | 友久, 松浦 |本 | 通販 | Amazon 

『白楽天詩選』白楽天詩選 (上) (岩波文庫) | 白居易, 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

白楽天詩選(下) (岩波文庫) | 白居易, 川合 康三 |本 | 通販 | Amazon

『王維詩選』王維詩集 (岩波文庫) | 環樹, 小川, 春雄, 都留, 仙介, 入谷 |本 | 通販 | Amazon 

『李賀詩選』李賀詩選 (岩波文庫) | 李 賀, 黒川 洋一 |本 | 通販 | Amazon 

陶淵明全集』陶淵明全集〈上〉 (岩波文庫) | 陶 淵明, 松枝 茂夫, 和田 武司 |本 | 通販 | Amazon

陶淵明全集〈下〉 (岩波文庫) | 陶 淵明, 松枝 茂夫, 和田 武司 |本 | 通販 | Amazon

『蘇東坡詩選』蘇東坡詩選 (岩波文庫 赤 7-1) | 蘇 東坡, 小川 環樹, 山本 和義 |本 | 通販 | Amazon 

他にも岩波文庫からは品切れのも含めたくさん出ています。ちなみに先ほどのべた『唐詩概説』、『宋詩概説』も文庫で出ています。いつも品切れですがたまに復刊されるので、ぜひお買い求めください。詩の歴史やルールを知るためには必須の本といえます。

唐詩概説』唐詩概説 (岩波文庫) | 小川 環樹 |本 | 通販 | Amazon 

『宋詩概説』宋詩概説 (岩波文庫) | 吉川 幸次郎 |本 | 通販 | Amazon 

また絶版ではありますが、集英社漢詩大系シリーズもよいです。比較的多くの作品が収録されています。

 

2、読む際にあると便利なもの

ようやくここまで来ました。本を買われても結構苦戦するのが読み方ですね。訓読が難しい・・・とか高校以来読んでいない!なんていう人も多いと思います。

もし本当に訓読の文法が分からないという人は以下の本をお勧めします。

『基礎から解釈へ 漢文必携 四訂版』基礎から解釈へ 漢文必携 四訂版 | 菊地 隆雄, 村山 敬三, 六谷 明美 |本 | 通販 | Amazon
 

助字といわれる特殊な字や訓読の文法が分かります。これは文の方でしょ?と思われるかもしれませんが、詩のほうでも実は重要です(大きな声でいえませんが私もたまに訓読の文法をまちがえることがあります)

漢和辞典は『全訳漢辞海 第四版』がおすすめです。おっと言い忘れました。漢和辞典は漢字を引くときに使うものと思われがちですが、熟語をしりたいときも引きます。

全訳漢辞海 第四版 | 芳郎, 戸川, 進, 佐藤, 富士雄, 濱口 |本 | 通販 | Amazon

 

 

読書案内中心となってしまいましたが、続きはまた今度書きます。読むときのコツやよくある疑問といったものを書いていきたいと思います。